横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)27号 判決
原告 栗田常光
原告 神達八郎
原告 佐藤光助
原告 諏訪部貴和子
原告 竹内味里
原告 桧山千里
原告 藤田春吉
原告 松井キヌ子
原告 柳澤健樹
原告 山口真
右一〇名訴訟代理人弁護士 岡村共栄
同 岡村三穂
同 中込光一
被告 山口巖雄
右訴訟代理人弁護士 久保博道
参加人 厚木市長 山口巖雄
右訴訟代理人弁護士 矢島惣平
同 長瀬幸雄
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は厚木市に対し三七二一万八〇〇〇円及びこれに対する平成八年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告が、平成七年一〇月一日、厚木市長として、株式会社イバラキ(以下「イバラキ」という。)との間で、同日から平成八年三月末日までの期間の厚木市の一般廃棄物の焼却灰、破砕不燃物及びガラスくずの処理業務(以下「本件業務」という。)を委託する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結したことについて、厚木市の住民である原告らが、本件契約の締結には、地方自治法二三四条等に違反した違法があり、これにより厚木市は合計三七二一万八〇〇〇円の損害を受けたと主張して、同法二四二条の二第一項四号に基づき、厚木市に代位して、被告に対し、右金員及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成八年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた住民訴訟である。
原告らが主張した本件契約の締結の具体的違法事由は、(1) 被告が一般競争入札によらずに本件契約を締結したことが地方自治法二三四条に違反する、(2) 当時契約当事者の候補として挙がっていた他の業者(この業者の委託料は、処理量一トン当たりの単価が二万六五〇〇円であった。なお、以下、委託料は、特に断りのない限り、処理量一トン当たりの単価で表記する。)よりも高額の委託料(単価三万二五〇〇円)でイバラキとの間で本件契約を締結したことが被告の善良なる管理者の注意義務又は地方財政法四条一項に違反するというものである。また、原告らの主張する厚木市の具体的損害額は、イバラキと前記の他の業者との委託料の単価当たりの差額六〇〇〇円に、厚木市の契約期間の委託処理量六二〇三トンを乗じた三七二一万八〇〇〇円である。
一 基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがなく、証拠の掲記のある事実は主にその証拠により認定した事実である。)
1 当事者
原告らは厚木市に居住する住民である。
被告は、平成七年二月、厚木市の市長として選出され、同月二三日以降、市長の地位にある者である。(丙二二)
2 本件契約の締結
被告は、平成七年一〇月一日、厚木市長として、イバラキとの間で、同日から平成八年三月末日までの期間の厚木市の一般廃棄物の焼却灰、破砕不燃物及びガラスくずの処理業務(本件業務)を委託する旨の「焼却灰等処理業務委託契約」(本件契約)を締結した。本件業務の内容は、厚木市内で発生する一般廃棄物を収集・運搬し、処分する業務のうち、中間処理施設であるごみ焼却施設において生ずる焼却灰、破砕不燃物及びガラスくずを運搬して埋立処分する業務であった。イバラキは、右契約に基づき本件業務を行った。(丙三の一・二、弁論の全趣旨。なお、本件契約締結の事実は争いがない。)
また、厚木市は、イバラキの最終処分場が所在する茨城県千代川村等に対し、千代川村の環境整備保全基金等として、毎年負担金を拠出していた。その金額は、平成六年度は約四〇〇万円であった。
3 本件契約の締結の経緯
厚木市は、平成三年度から、イバラキに本件業務を委託する旨の契約を締結し、契約期間が満了すると、新たに契約を締結してきた(丙三の一、弁論の全趣旨。なお、当初の契約とその後事実上契約の更新状態にあることは争いがない。)。契約当初の委託料の単価は二万五〇〇〇円であったが、年々この額が高額となり、平成六年度の単価は三万三〇〇〇円であった。このように次第に高額となったため、厚木市の環境部は、平成七年三月、委託する業者の変更の検討を開始し、環境部職員は候補業者の最終処分場が所在する愛知県豊橋市及び広島県安芸郡下蒲刈町に現地調査に赴くなどの調査を行った。環境部は、同年六月二七日、部内会議において、豊橋市に最終処分場を有する三石産業有限会社(以下「三石産業」という。)及び下蒲刈町に処分場を有するダイユウ技研土木株式会社(以下「ダイユウ技研」といい、三石産業と合わせて「候補二業者」ということがある。)に委託する方針を決定し、この方針について、同月二九日付けで、被告の決裁を求める旨の文書(以下「本件起案文書」という。)を作成した。しかし、被告は、本件起案文書の決裁をせず、同年一〇月一日、同日以後もこれまでどおり、イバラキに本件業務を委託する旨の契約(本件契約)を締結した。
二 主な争点
1 本件契約を随意契約の方法により締結したことが地方自治法二三四条に違反するか。
2 委託料の高いイバラキに本件業務を委託したことが善良なる管理者の注意義務又は地方財政法四条一項に違反するか。
三 争点についての当事者の主張
1 地方自治法二三四条違反の有無(争点1)
(一) 原告らの主張
(1) 随意契約の方法によったことの違法
本件契約は、地方公共団体が一般私人と対等の立場で私法上の効果を発生させることを目的とするもので、いわゆる私法上の契約であるから、当然に地方自治法二三四条の適用を受ける。同条によれば、地方公共団体による契約の締結方法は、一般競争入札が原則であり、指名競争入札及び随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限ってすることができる。本件契約は右の随意契約によることのできる場合に該当する事由がないにもかかわらず、被告は、随意契約の方法によりこれを締結した。
よって、本件契約は、地方自治法二三四条に違反し、違法である。
(2) 本件が競争入札に適しないとの被告及び参加人の主張に対する反論
被告及び参加人は、随意契約によることのできる場合について判断した昭和六二年の最高裁判決(最高裁昭和六二年三月二〇日第二小法廷判決・民集四一巻二号一八九頁)を引用して、本件契約の締結が競争入札に適しないと主張する。
しかし、右判決が認めている競争入札に適しない場合に該当するかどうかの判断についての裁量権も無制限なものではないところ、被告及び参加人の主張は、本件契約の締結における裁量権の行使が合理的な範囲内にあることを何ら主張していない。本件業務は公共性が高く重要性に富むが、それだけで地方自治法二三四条の許容する随意契約の認められる場合に当たるとはいえない。本件業務の公共性・重大性を前提としても、業者の機会均等・公正な競争を確保しつつ、被告及び参加人の強調する委託基準を満足させることは十分に可能である。ところが、被告及び参加人は、特定の一業者であるイバラキに本件業務を一任して継続させたことにつき納得できる理由を示しておらず、随意契約の相手方の選定過程において裁量権の濫用がある。
(二) 被告及び参加人の主張
(1) 本件業務の性質と委託基準・処理基準
本件業務は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「廃掃法」という。)六条の二第一項に基づき、地方公共団体の固有事務としてその権限と責任において行われる公共性の強い業務である。自区内に最終処分場を有する地方公共団体は民間業者に委託せず、自らの業務として右業務を行うが、そうでない地方公共団体は民間の業者に委託することになり、この場合、当該委託先業者は、いわば本来の市の業務の一遂行部門としての役割を担うことになる。そのため、委託者である地方公共団体は、委託先業者が一般廃棄物の処理基準に従った処理を行うことを確保し、仮に不適正な処理が行われた場合には、委託先業者と連帯して責任を負うこととされている。このため、業者の選定においては、法の目的・趣旨に沿い、相互の信頼関係があることが要求される。
このような業務の強い公共性のため、廃掃法施行令四条は、委託基準を定め、受託者の選定と委託の方法に、大要次のとおりの制限を加えている。なお、このうち本件において重要となるホの基準は、経済性の要請を犠牲にしても業務の安全、確実な遂行を確保しようとするものであり、本件業務の性格を如実に表しているといえる。
イ 受託者が受託業務を遂行するに足りる施設、人員及び財政的基礎を有し、かつ、受託しようとする業務の実施に関し相当の経験を有する者であること。
口 受託者が破産者や刑罰を科せられた者等でないこと。
ハ 受託者が自ら受託業務を実施する者であること。
ニ 一般廃棄物の収集、運搬、処分又は再生に関する基本的な計画の作成を委託しないこと。
ホ 受託料が受託業務を遂行するに足りる額であること。
へ 一般廃棄物の処分又は再生を委託するときは、市町村において処分又は再生の場所及び方法を指定すること。
卜 委託契約には、受託者が右のイないしハの基準に適合しなくなったときは、市町村において当該委託契約を解除することができる旨の条項が含まれていること。
さらに、廃掃法六条の二第二項は、一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(処理基準)が政令で定められる旨を規定し、その具体的内容は、同法施行令三条が相当詳細に規定している。そして、これらの処理基準が実現しようとしている内容が実質的に確保されるようにするため、これらの処理基準を確実に遵守することができる業者が選定されなければならない。
(2) 最終処分場の所在地と委託先業者の選定
委託基準は、処分の場所は委託者が指定するものとし((1) のへ)、受託者の都合で他の場所に処分してはならないとしているのであり、また、処分場自体は受託者が許可を受け自らの責任で所有・管理するものであるにもかかわらず、委託者は処分場の所在する市町村に対し、処分の場所、内容及び受託者等を通知すべきこととしている(廃掃法施行令四条九号イ)。これを受けて、最終処分場を有する多くの市町村では、区域外からの廃棄物の搬入・処分について取扱要綱を設けるなどして、搬出市町村との事前協議制を導入しているところが多い。イバラキの最終処分場が所在する千代川村においても、また、本件で検討された候補二業者の最終処分場の所在する市町村にも、このような制度が導入されている。そして、このような事前協議制の運用の厳しさ及び協議の内容は、区域内の最終処分場の数、面積の大小、処分量、区域外からの受入処分量の多寡、処分場の場所の地勢(山間地、島、その他)、気候、処分場に対する住民感情、過去の処分場の騒音、水質汚濁、生活環境の悪化等の公害の発生例から当該市町村内の産業の発展状況、税収の状況、雇用状況などに至るまで、様々な個別の事情によって、異なっている。本件でも厚木市の担当者は、事前協議に一定の時間を要することや、それが問題なくスムーズに済むものであるかどうかに神経を使い、考慮を払っている。
(3) 競争入札に適しない場合の意義
地方自治法施行令一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは、契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法を採るのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合もこれに該当するものと解される。また、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている地方自治法及び同法施行令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきである(前記最高裁昭和六二年三月二〇日判決)。
前記(1) 及び(2) のとおり、本件契約の締結においては、単に法令の基準を遵守するだけではなく、実質的に安全かつ確実に業務を処理する業者を選定するために、業者の資力、信用、技術、設備、業務処理の体制、経験等を調査、検討し、その結果を踏まえて決定する随意契約による方法がより妥当である。それが一般廃棄物の円滑かつ安定的な処理という公益を増進させることになるのであるから、本件では随意契約によるのが適切かつ妥当であり、被告の判断は合理的な裁量によるものであるから、地方自治法二三四条違反の違法はない。
2 善管注意義務、地方財政法四条一項違反の有無(争点2)
(一)原告らの主張
(1) 委託料の高額なイバラキに委託することの違法
本件契約がいわゆる私法上の契約ではなく、公法上の契約として随意契約の方法によることができる場合であるとしても、被告は、市長として、当該契約の当事者となるべき業者の営業の安定性等を十分考慮した上で、可能な限り市の支出を削減し、最大限の効果を上げるよう努力すべき善良なる管理者の注意義務を負っている。しかし、被告は合理的な理由がないにもかかわらず、助役による決裁まで終えた本件起案文書の決裁をせず、前記のとおり、本件起案文書において候補とされた候補二業者と契約を締結しないで処分単価の最も高いイバラキと本件契約を締結し、これによって、厚木市に不要な財政支出を強いた。
また、地方財政法四条一項は、地方公共団体の経費につき、「その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」ことを定めているが、本件契約の締結による経費の支出は、右条項にも違反する。
(2) イバラキの委託料に関する被告及び参加人の主張に対する反論
被告及び参加人は、イバラキの委託料が、他の業者と比較して高額とはいえず、また、本件業務の公共性によれば、委託料が安価というだけで委託をすべきとはいえない旨を主張する。
しかし、市環境部が三か月間もの時間と費用をかけ、現地調査を含め様々な調査を行い、その結果絞られた候補二業者の処理単価が二万六五〇〇円ないし二万七〇〇〇円であったにもかかわらず、わざわざ処理単価が三万二五〇〇円のイバラキに委託したことは合理性を欠く。被告及び参加人は、他の地方公共団体の委託料には本件でのイバラキの委託料よりも高額のものもあると主張するが、これは候補二業者に委託しなかったことの合理性についての根拠にはならない。
また、被告は、イバラキの委託料が、「受託業務を遂行するに足りる額」であることを強調するが、イバラキは、従来から正確かつ科学的な積算根拠による単価設定の姿勢に欠けていた。他の地方公共団体からの委託料にはばらつきがあり、また、イバラキは、平成八年四月一日から、厚木市に対する処理単価を二万七〇〇〇円にまで破格の値下げをしていることからも、この点には疑義がある。イバラキ及び同社の専務は、平成一〇年三月三日、本件に関連する千代川村の最終処分場の造成工事費用を水増しし、これによって得た利益について脱税を行ったとして有罪の判決を受けているが、このように造成工事費用が水増しされたことによって、委託料も不当に高額となっていたと推認される。さらに、厚木市は、千代川村に対し、委託料とは別に協力金を納付していたのであり、イバラキに委託することによってその分高額な支出を行っていたといえる。
(3) 候補二業者の安全確実性
被告及び参加人は、イバラキが、候補二業者と比較して、より安全確実な業者であったと主張する。
しかし、候補二業者の安全性及び確実性については、市環境部が三か月間もの時間と費用をかけ、現地調査を含め様々な調査を行い、確認済みであった。被告は、最終処分場の所在地として広島や豊橋は遠距離にすぎると主張する。しかし、ダイユウ技研は海運を利用する予定であったが、気候次第では運送を中止し、そのためのストックヤードを鶴見に確保していた。三石産業は一般道路よりも交通事故の発生率が低く安全性の高い自動車専用道路を利用することになっていた。
また、被告は、候補二業者が、一般廃棄物と産業廃棄物の混合処理を行っている点を問題とするが、昨今は廃棄物処理についての規制の強化が進行しており、必ずしも一般廃棄物処理の専門業者に委託しなければ安全確実でないという理由はなく、ダイユウ技研は受入廃棄物の安全性の管理を十分行っていること、三石産業は即日覆土しており、より安全であることが確認されている。これに対し、イバラキは、ガラスくずをそのまま埋立処分し、平成六年後半からは、違法といえるような最終処分場の掘削・拡大も行っている。イバラキは、廃棄物の焼却灰の上に覆土するサンドイッチ方式で処分を行っているため、再度同位置に大規模な最終処分場を建設することは、覆土と廃棄物の混合物が残土として処理されるおそれがあり問題である。
(4) 被告の裁量権の行使における逸脱
本件においては、次のとおり、不透明な経過をたどってイバラキに対する本件業務の委託が決定されており、被告のその決定が恣意によるものであって裁量権の範囲を逸脱していることは明らかである。
すなわち、被告は、平成七年二月の市長就任の後、同年三月二四日、環境部の幹部職員と打合せを行ったが、この際、「君達はプロだから。」と述べ、イバラキよりも安全かつ安価な業者の選定を環境部において行うことに理解を示していた。被告は、同年四月一七日、予算編成のためのヒアリングを行い、このとき環境部の角田次長は、被告に対し、他業者の選定作業中であり、そのためイバラキとの契約を半年間とした旨を報告していた。環境部は、その後、三か月間もの時間と費用をかけ、現地調査を含め様々な調査を行い、環境部の部長であった川田利夫は、同年六月二九日付けで、ダイユウ技研と三石産業を候補として決定した旨の文書(本件起案文書)を作成し、助役の決裁まで受けた。本件起案文書には、イバラキへの委託料は年約八パーセントの割合で値上りしており、今年度は単価が三万五〇〇〇円となること、候補二業者への委託によって、年間約一億円の財政リストラになること、これらの業者は施設の管理状況が良好で、受入側の自治体との協議も容易であること等が記載されており、これがこのときの環境部内の一致した意見であった。そして、同年七月一日、川田部長と角田次長が異動となり、後任の落合次郎部長と霜島次長との間で事務引継が行われた。ところが、その後、被告は、同月一二日、一方的に本件起案文書の決裁を拒否し、それまでの川田部長以下の環境部の調査検討結果を全く顧慮せず、また、前記の候補二業者を選定した旨の前環境部の伺い書(本件起案文書)を十分吟味することもその説明を十分聞くこともなく、落合部長以下の環境部に対し、即座に業者の再検討を促す趣旨の意見を述べた。その結果、新環境部は、わずか数日の再調査・検討を経ただけで、安易に従来どおりの業者であるイバラキに本件業務を委託することを決定してしまい、同月一七日にはイバラキとの間で単価三万二五〇〇円で仮契約をするに至った。
このような経緯を見れば、被告の判断が誤ったものであり、違法であることが明らかである。
なお、前記のとおり、イバラキ及び同社の専務は脱税について有罪の判決を受けているが、被告は、その後もイバラキへの委託を継続しており、このことからも、受託者が破産者や刑罰を科せられた者等でないこと(廃掃法施行令四条二号。前記1(二)(1) の委託基準のロ。)を定める法の精神に背いていることは明らかである。厚木市議会は、本件契約の右のような不透明な締結過程を解明するため、異例にも、「ごみ焼却灰最終処分に関わる調査特別委員会」を設けて調査を行い、平成八年三月一日には委員長報告がされ、全員一致で承認されている。その報告は、「業者選定に当たっては必要最小限度の費用で最大の効果を上げることが行政執行機関に課せられた使命であるが、平成七年一〇月一日から六か月間の業務委託契約については、法の精神を遵守し適切な事務手続の遂行がされたとはいい難い。また、現在の方法では疑惑を招くおそれがあるので、今後の契約の締結に当たっては、地方自治法及び厚木市契約規則並びに競争入札の資格等に関する規程等にかんがみ、透明性の確立を図り、更なる市民の合意が得られるよう改善に努められたい。」という趣旨のものであった。被告は、右委員会の調査に当たって、イバラキの委託料が候補二業者と比較して高額でないことを示すような資料をつじつま合せのため作成するまでしている。
(二) 被告及び参加人の主張
(1) 善管注意義務違反及び地方財政法四条一項違反の各不存在
本件業務を実質的に適正に処理できる業者を選択し、どのような委託料を適正なものとして委託契約を締結するかは、被告の広範な専門的技術的裁量に属するものである。本件契約の締結は、右の裁量権の範囲内で行われたものであり、本件契約の締結に、原告らの主張する善管注意義務、地方財政法四条一項違反の違法はない。具体的には、次のとおりである。
(2) イバラキの委託料は適正なものであること
平成一一年の段階で、平成七年当時の委託料の単価を五五の地方公共団体に照会したところ、その平均値は三万二三八〇円であり、最も多い価格帯は三万円超から三万五〇〇〇円までであり、四二の地方公共団体が三万円以上であった。したがって、イバラキの委託料のみを取り上げれば、それ自体は違法でも不当でもない。
また、前述の委託基準は、委託料が委託先業者にとってその業務の遂行に足りる金額とすることを定めているが、これは、本件業務の公共性にかんがみ、事務遂行が安定的かつ確実なものであることを要するため、単純な経費最少原則を当てはめることが適当ではないとの趣旨によるものである。本件においても、被告は、低廉な委託料を実現することに意を用いるよりも、安定的かつ確実な事務遂行を重視して、委託先業者を選定する裁量権を行使したものであり、右裁量権の行使は適法である。
原告らは、イバラキの他の地方公共団体からの委託料にばらつきがある点、イバラキが平成八年四月一日から単価二万七〇〇〇円で受託している点を捉えて、その合理性を問題とするが、各委託における個別の事情や条件により単価が異なることは当然のことであり、右の点は、本件における委託料が合理性を欠くことの根拠とはならない。
(3) 候補二業者の安全確実性についての問題
次のとおり、候補二業者は、イバラキと比較して、より安全確実な業者であったとはいえない。
ダイユウ技研の場合、その最終処分場は、広島県の瀬戸内海の上黒島に所在し、厚木市からの距離は約九六〇キロメートルに及ぶ。焼却灰等はそこまで船舶輸送されることになっていたが、港での積換作業が必要となるほか、台風による転覆又は衝突が発生すると、事故による輸送の障害は、トラック輸送の場合に比べて大きいと予想される。また、三石産業の場合、その最終処分場は、豊橋市に所在し、厚木市からの距離は約二八〇キロメートルに及び、焼却灰等はそこまでトラック輸送されることになっていた。これに対し、厚木市からイバラキの最終処分場の所在する千代川村までは約一三〇キロメートルにすぎない。一般的に、輸送距離が長ければ、輸送中の事故に遭遇する確率は高くなり、この点で、イバラキに委託する方が安全確実であるといえる。
さらに、最終処分場までの距離が短い方が、安全性の点のみならず、最終処分場周辺の環境問題についての情報及び動向を把握し、問題が発生した場合の対処をすることも容易であるという意味で優れている。
加えて、イバラキは従来から一般廃棄物のみを受け入れていたが、候補二業者は、従来は産業廃棄物のみを受け入れていたところ、近年これに一般廃棄物も加えて混合処分をするようになったものである。しかし、産業廃棄物は、一般廃棄物と比較して多量に発生し、その成分に有毒なものが含まれており、環境に悪影響を与える可能性が大きい。このことは、産業廃棄物の定義規定である廃掃法二条四項、同法施行令二条からも明らかである。このため、混合処分をする業者に委託すると、住民の反対運動等から搬入の制限や禁止に結び付き易い。これに対し、一般廃棄物は、市町村が法令に従って焼却処理し、常にその成分を監視しながら焼却灰等を処分しているものであり、その内容及び成分は、いずれの市町村においても類似し、一定の傾向があり把握し易いといえる。原告らは、ダイユウ技研も受入廃棄物の安全性管理を十分行っている旨、イバラキはガラスくずをそのまま埋立処分し違法といえるような処分場の掘削・拡大を行っている旨、三石産業では即日覆土しており、より安全である旨を主張する。しかし、これらの安全性についての議論は、本件契約の経過が厚木市議会で取り上げられた後に初めて指摘されたものである。原告らも、他の業者の選定作業が、専らイバラキの委託料の高さを問題として開始されたものであることは自認している。
さらに、イバラキは、本件契約の締結の段階で、その処理業務を四年以上の間にわたり大きな問題が生ずることもなく円滑かつ確実に遂行していたのであり、このような実績も重視すべきであった。
(4) 被告の裁量権の行使における逸脱の不存在
委託先業者の選定においては、地方財政法四条一項の趣旨を考慮するとしても、前記のような本件業務の性質から、被告に広範な専門的技術的裁量がある。そして、次のような点からすれば、イバラキから提示された単価三万四〇〇〇円を三万二五〇〇円に減額調整した上で、従前どおりイバラキを委託先業者に選定したことは、被告の合理的な裁量の範囲内の判断であることは明らかである。
第一に、イバラキの委託料が他の例と比べても客観的に適正なものであるといえることは前記(2) のとおりである。
第二に、安定的継続的に廃棄物の搬出及び処分をすることの市民生活及び経済活動に占める重要性にかんがみると、被告は、ごみの受入れが停止されるような事態を招くことのないよう、安定的継続的に廃棄物を搬出及び処分できる業者に委託することに配慮し、そのように努めていかなければならない立場にあった。
第三に、厚木市は市内に最終処分場を持っておらず、同市においては、より一層安定的確実に本件業務を処理することが要請されている。
原告らは、本件契約は、三か月間にも及ぶ川田部長以下の環境部の調査検討結果を全く顧慮せずに安易に従来どおりの業者であるイバラキとの間で締結されたものであり違法である旨を主張する。しかし、川田部長を中心とした業者の検討方法は、イバラキを当初から候補から除外し、ダイユウ技研と三石産業をほぼ候補に絞ってされたものである。市長としての被告を補助する機関である環境部が、その所管事務について専門の担当部署であるがゆえに、視野が狭く偏った衡量によって誤った判断に陥ることもあり得るのであり、それを是正するのが、市民から選挙によって選ばれている被告の責務であり、役割である。現に、被告は、平成七年七月一二日の段階でその問題点を指摘した上で、その後、全体的な視野から安定的かつ確実な業務処理の遂行をより重要視して、最終処分場の距離の問題、混合処分の問題(これは、落合部長以下の環境部の意見も踏まえたものであった。)及びイバラキがこれまでの業務で大きな問題を起こしていないことを考慮してイバラキを委託先業者として選定することを決定し、本件契約を締結したものである。
第三争点に対する判断
一 地方自治法二三四条違反の有無(争点1)
1 本件契約を締結すべき方法
(一) 地方自治法二三四条一項は、「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」と、同条二項は、「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」と定めている。そして、右規定を受けて、地方自治法施行令一六七条の二第一項は、前記地方自治法二三四条二項の規定により随意契約によることができる場合は次の各場合とする旨を定めている。
イ 売買、貸借、請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあっては、予定賃貸料の年額又は総額)が別表第三上欄に掲げる契約の種類に応じ同表下欄に定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき(同項一号)
ロ 不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき(同項二号)
ハ 緊急の必要により競争入札に付することができないとき(同項三号)
ニ 競争入札に付することが不利と認められるとき(同項四号)
ホ 時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき(同項五号)
へ 競争入札に付し入札者がないとき、又は再度の入札に付し落札者がないとき(同項六号)
卜 落札者が契約を締結しないとき(同項七号)
(二) そして、前記最高裁昭和六二年三月二〇日判決は、右のロにいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(右判決は昭和四九年政令第二〇三号による改正前の地方自治法施行令一六七条の二第一項一号についてのものであるが、同号の文言は、右ロと同様のものであった。)について、「契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合が該当することは疑いがないが、必ずしもこのような場合に限定されるものではなく、競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが、不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も同項一号に掲げる場合に該当するものと解すべきである。そして、右のような場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている(地方自治)法及び(同法施行)令の趣旨を勘案し、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である。」と判示している。
(三) 本件業務は、一般廃棄物の焼却灰、破砕不燃物及びガラスくずの処理業務を内容とするものである。したがって、本件契約は、廃掃法六条の二第一項の規定に基づき、地方公共団体がその固有事務を私人に委託するものであるが、地方自治法二三四条の文言上、このような契約に同条の適用を排斥する理由はなく、同条の趣旨が、地方公共団体の契約の相手方が固定化され、契約内容が情実に左右されて公正な取引が害されることがないようにするものであることからすれば、そのような趣旨は前記のような性質を有する本件契約についても当てはまるのであり、同条の適用を除外すべき理由はないと解する。よって、本件契約も、地方自治法二三四条一項の定める「売買、貸借、請負その他の契約」に当たることになるので、同条二項により地方自治法施行令一六七条の二第一項に定める要件を満たさなければならないことになる。
2 本件契約の性質又は目的
そこで、本件契約の締結が、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に当たるかを検討するため、前記判決のいう見地に立って、本件契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情について見ることとする。前記第二の一の事実、証拠(甲八・一六、丙一・二〇、証人川田利夫、同足立一彦)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 廃掃法は、廃棄物の処理のうち、一般廃棄物について、廃掃法六条の二第一項において「市町村は、一般廃棄物処理計画に従って、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分(中略)しなければならない。」と定めてこれを市町村の責任としているが、その責任の具体的内容として、市町村が右の処理を業者に委託する場合にも、その不適切な処理の結果生じた生活環境の保全上の支障等について当該業者と連帯して責任を負うものと解される(丙一のA一三七頁同旨)。
(二) 厚木市は、県下の一九市中唯一、一般廃棄物の最終処理場、すなわち、可燃物を焼却した灰、破砕した不燃物及びガラスくずを最終的に埋立て等によって処理する施設がなく、その処理を外部の業者に委託し、区外において処理しなければならない状態であった。そのため、厚木市において排出される一般廃棄物は、厚木市の焼却施設で焼却され、その焼却灰、破砕した不燃物及びガラスくずについて最終処理が必要となるが、その分量は、平成六年度で一万一八四五・一五トン(一日当たりの平均約三二・四五トン)に上っていた。厚木市には、焼却灰を保管する施設(バンカー)の横に一七〇トン程度(五、六日分)はストックしておけるスペースはあるが、それ以上の期間その処理が滞った場合には、市民生活及び経済活動に大きな影響を及ぼすことが予想された。
反面、近時においてはごみ処理の在り方が社会的な関心事となり、他府県からのごみの受入れが拒否される事例も見られるようになった。厚木市においても、昭和六三年ころ、本件業務を委託していた会社の関連会社が廃棄物の不法投棄をしていたことが報道されたため、当該会社に対する委託を止めたことや、平成二年一二月、そのころ処分を委託していた千葉県銚子市に最終処分場を持つ会社(千葉クリーン産業)が越境受入拒否の指導を受けたため、契約の更新ができない事態に至ったことがあった。そのため、厚木市においては、廃棄物の受入側の地方公共団体との関係を良好に保つとともに、業者の選定においても、廃棄物の処理等において問題を引き起こすおそれのない信頼できる業者を選定する必要があった。
(三) 厚木市の置かれた右のような事情も手伝い、委託先の業者との委託料の交渉には困難が伴い、委託料は、年々上昇の傾向にあり、平成六年度には単価三万三〇〇〇円、総額で四億〇二六一万六六四五円(消費税込み)に達していた。また、厚木市は、平成六年当時は、イバラキ一社と契約をしていたが、イバラキの最終処理場が所在する茨城県千代川村に対し、負担金として四〇五万三五四五円(基本額五〇万円に、搬入量一トン当たり三〇〇円を乗じた金額を加えた額)を支払っていた。一方で、厚木市の財政状況は悪化の傾向にあり、基金の取崩し等、予算編成にも厳しさが増していた。
(四) 全国の市町村も、自区内の最終処理場の延命を図るため、業者に処理を委託し、自区外で一般廃棄物の最終処理を行っている例が増加していた。市環境部環境業務課長であった足立一彦が、平成八年一一月ころ、厚木市以外の地方公共団体における委託先業者に対する委託の方式を電話で聴取調査を行ったところ、随意契約の方法が採られていた。
3 これらの事実によれば、委託者である厚木市は、厳しい財政状況の中で廃棄物処理の委託料について重大な利害を持っていたことは当然であるが、同時に、安定的かつ継続的に一般廃棄物を処理するため、県下の他の市と同等又はそれ以上に信頼できる業者を選定する必要があったのであり、そのために多少の価格の有利性を犠牲にしても、契約の相手方の信用、経験、安全性等に関心を持ち、これらを熟知した上で特定の相手方を選定してその者との間で契約を締結するのが妥当であると解され、本件契約は、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するから、被告が本件業務の委託を随意契約の方法によったことについて裁量権の濫用、逸脱があったものということはできない。
よって、原告らの主張は理由がない。
二 善管注意義務、地方財政法四条一項違反の有無(争点2)
1 問題の所在
被告が本件業務の委託を随意契約の方法によったことが適法と認められることは前示のとおりであるが、本件契約の締結の経緯に照らし、本件契約の締結が被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、被告に課せられた善管注意義務又は地方財政法四条一項に違反するか否かということは、随意契約を採ることの適否とは別問題である。そこで、本件契約の締結の経緯について、検討することとする。
2 本件契約をめぐる事実経過
前記第二の一の事実、前記第三の一2の認定事実、証拠(甲三・五・六・一六・一七、乙一、丙四ないし六、丙二〇ないし二二、丙三六の一ないし四、丙三九ないし四二、証人川田利夫、同足立一彦、同落合次郎、被告兼参加人山口巖雄本人)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
(一) 厚木市におけるごみの収集、運搬、焼却施設(環境センター)の管理等に関する事項は、環境部環境業務課が所管していた。環境部には、環境業務課のほか、環境保全課、ごみ対策課、交通安全課が設けられ、これら四課は、環境部長、専任参事及び次長が統括していた。
厚木市は、昭和六二年までは、静岡県の一色村に最終処分場を持つ環境システムサービスに、平成二年までは、前記のとおり千葉クリーン産業に、それぞれ処分を委託していた。ところが、前記のとおりの事情で千葉クリーン産業との契約が更新できなかったため、同社からイバラキの紹介を受け、廃棄物の受入先となる千代川村と協議を行った。厚木市は、平成三年三月二八日、千代川村との間で協定書を調印し、同年四月一日以降はイバラキに処理を委託するようになった。厚木市は、平成四年度以降、本件業務を長野県の飯山陸送(ただし、運搬業者は東洋興業であった。)にも委託していたが、最終処分場からの排水のため千曲川の水質に問題が生じ、飯山陸送が保健所から安全性につき指導を受けるに至ったため、平成四年度限りで契約を破棄した。そのため、その後はイバラキのみに処理を委託している状態であった。そのような中、イバラキへの委託料は、平成三年度から平成六年度にかけて、年間約八パーセントの割合で上昇し、平成三年度には二万五〇〇〇円であった単価が、平成六年度には、前記のとおり三万三〇〇〇円となるに至っていた。もっとも、イバラキは、廃棄物の処理業務の過程と結果において、それまで取り立てて大きな問題を引き起こしておらず、また、そのような問題の発生を予測させる事情もなかった。
(二) そのような中、平成七年二月の市長選挙において被告が市長に選出された。被告は、就任後市政の方針として経費節減を掲げていたため、環境部でもこの方針に沿う施策が採れないかが話題となり、その中で、毎年上昇している焼却灰等の処分費用の問題が取り上げられていた。
被告は、同月二三日、初登庁し、同年三月二四日、環境部の課長職以上の職員との間で、日常業務とこれからの課題等についての打合せの機会を持った。この席上で、川田部長は、焼却灰等の処分費用が毎年上昇しているので、新たな処分業者や最終処分場を研究してみたいと発言した。被告は、この席上で、同席した職員に対し、「君達はプロだからよろしく頼む。」旨を述べ、川田部長が発言した最終処分場の選定の件を含め、環境部の方針について肯定的であった。
(三) 右の話合いの結果を受け、環境部は、新たな処分業者や最終処分場の研究のためのプロジェクトチームを編成した。プロジェクトチームの座長には川田部長が就き、角田次長、井上専任参事、足立課長、比留川栄課長代理、市川副主幹技師及び植松主査が加わった。環境部では、平成七年三月三〇日、業者選定の作業が行われることになったため、通例は一年単位で行われるイバラキとの委託契約を今回は九月末までの六か月とする旨を決定し、その旨をイバラキに電話で伝えて同社の了解を得た。
同年四月一七日、新市長の下で初めての予算編成のためのヒアリングが実施され、その際、角田次長は、本件業務の委託先業者を選定するためにその調査中であり、イバラキとの契約は半年契約としている旨を被告に報告した。
右プロジェクトチームは、同年四月から同年六月の上旬にかけて、業者の選定作業を行った。足立は、川田部長に、四月上旬の段階では、イバラキはこれまで問題なく処理をしてきたのであるから業者の選定作業の対象として他の業者と一緒に検討すべきであると述べたが、川田部長は、イバラキは高いから考えなくてもよいとの意見であり、終始、イバラキは対象から外された形で選定作業が進められた。選定作業は、最初に、多数存在する全国の業者の中からイバラキ以外の四社の営業案内(パンフレット)と県の許可証の写しを取り寄せ、そのうちダイユウ技研及び三石産業の担当者に来庁してもらい、口頭で説明を受け、候補をこの二社とすることにし、より細かい検討作業をすることにした。プロジェクトチームは、同年五月二二日三石産業に、同月二九日及び三〇日ダイユウ技研に、それぞれ職員を派遣して、最終処分場の現地調査を実施した。これらの調査と検討の結果によれば、ダイユウ技研の最終処分場は広島県の瀬戸内海の上黒島に所在し、厚木市からの距離は約九六〇キロメートルであり、焼却灰等はそこまで船舶輸送されることになっていた。最終処分経費は単価二万六五〇〇円で、最終処分場の管理状況は廃水処理、埋立処理ともに良好であり、産業廃棄物と一般廃棄物が同一の処分場内に埋め立てされているがこれについての問題は特に指摘されず、地元の船員を処分場で雇用していることもあって地元の住民の理解もあり、下蒲刈町に負担金を支払う必要もないというものであった。また、三石産業の最終処分場は愛知県豊橋市に所在し、厚木市からの距離は約二八〇キロメートルであり、焼却灰等はそこまでトラック輸送されることになっていた。最終処分経費は単価二万七〇〇〇円で、最終処分場における灰の受入状況は、即日覆土を実施し、臭気発生などの特別の問題はなく、最終処分地の監視を兼ねて地元住民を雇用しており住民の理解もあり、豊橋市に負担金を支払う必要もないというものであった。ただ、産業廃棄物及び一般廃棄物を混合処理しているため、公害等の問題について検討の必要がある等の問題が指摘されていた。また、右二業者を呼んでヒアリングを行い、その中で、海難事故等の運搬中の事故の件についても検討が行われた。
これに対し、厚木市からイバラキの最終処分場の所在する千代川村までは約一三〇キロメートルであった。また、イバラキについては、処分場の掘下げが行われるという話があり、適法性に疑念を持つた川田部長が調査を命じたところ、茨城県庁において違法でない旨が確認されたが、同部長は疑問を持っていた。右の作業と並行して、イバラキに平成七年度下半期(一〇月以降の六か月)の単価の見積りを依頼していたところ、イバラキは、同年六月二六日、三万四〇〇〇円が限界である旨の回答をした。
プロジェクトチームは、同月二七日、結論的には前記のダイユウ技研及び三石産業とも問題がないとして、この二業者を最終的に候補とする旨を決定した。
(四) 厚木市においては、市長、助役、収入役と総務部等の総合的な調整をする三つの部の部長で構成され、市政の重要案件について協議する機関として、政策会議という機関が設けられており、委託先業者の変更は、単純な前例の踏襲という性格のものではないことから、右政策会議に諮られるのが通例であった。そこで、足立は、川田部長に対し、この件は政策会議に諮るべきである旨を示唆したが、川田部長は、その必要はない旨を述べた。
川田部長は、平成七年六月二九日付けで、植松に前記の二業者を候補とする旨の文書(本件起案文書)を作成させた。本件起案文書は、表裏一枚のものに、価格の比較表、調査結果の資料(職員の復命書等)を含め、添付書類が三、四枚添付されたものであり、三、四分で目を通せる分量であった。その内容は、次のとおりであった。
「現在の業者は毎年約八パーセント程度処理費が上昇しており、今年度単価は三万五〇〇〇円である。契約が満了になる平成七年一〇月以降は経費面等の改善のため最終処分場が特に優れている(新規の)二業者に決定してよろしいか。削減できる経費は、現在の処分費と比較した場合、年間一億〇三一八万八〇〇〇円。両者の最終処分場へは(同年)五月二二日及び五月二九日から三〇日に分けて現地調査をしており、施設も良好であると判断される。」(甲三の九頁、なお、甲一七の七頁)
川田部長は、本件起案文書につき、数日内に理事及び助役の認印を受けたが、その段階で何ら問題は指摘されなかった。
(五) その後、平成七年七月一日に人事の異動が発令され、環境部の部長は川田から落合に、同次長は角田から霜島に変わった。新旧の部長及び次長の四人は、同月三日及び五日、合計五、六時間にわたり、事務の引継ぎを行った。このとき、廃棄物処理の委託先業者の変更については、イバラキへの委託料が年々上昇しているので、環境部で他の業者を調査検討し、同年一〇月以降は新たな処理業者としてダイユウ技研と三石産業に委託する旨を決定したこと、そのため、搬出先となる自治体との間で事前協議等を進める必要があること、助役まで書類が行っているので、間もなく市長の決裁が終わると思われることが申し送りされた。また、落合が政策会議にかけるべきではないかと川田に尋ねたところ、川田は、リストラを図れたのであれば政策会議にかけなくても大丈夫である旨を告げて落合も了解した。
ところが、右の引継ぎが行われた後、次に述べる同年七月一二日の被告との話合いまで、被告からは、環境部にも、また前担当者である川田にも、委託先業者変更の件について何ら連絡が無かった。
折しも、厚木市に隣接する伊勢原市及び秦野市が共同で運営・利用している環境衛生組合の清掃工場で事故があり、両市からごみの受入要請があったため、落合部長、霜島次長、足立課長及び市川係長は、同年七月一二日午後四時すぎ、市長室において、これに対処するため緊急に被告と話合いをする機会を持った。被告は、この席上で、ごみの受入れの件については、隣接する市のことでもあり、行政間でお互いに助け合うことは大事なことであるから、最大限協力するようとの指示をした。その後、環境部から、焼却灰等の最終処分場の変更の案件についての決裁書の確認がされたところ、被告は、それは知らないと述べた。そこで、足立課長は、秘書課にあった本件起案文書を持ってきて被告の前に置き、業者変更の理由及び候補二業者に対する調査検討の結果を改めて説明し、候補二業者への変更で一億円強の経費節減になる旨の説明をした。その話を聞いた被告は、環境部の検討が、コスト面の重視に偏り、それまで四年以上の間大きな問題を起こしたことのないイバラキの実績を軽視しているように感じたため、次のように述べて再考を促した。
イ イバラキは平成三年度から毎年委託料が増額されているが、最近の厚木市の財政状況等を話すなどして企業努力をさせたのか。
ロ イバラキとの契約において、委託料以外の点で不都合があったのか。また、現場の意見も聞いたのか。
ハ 新規の業者に委託を行う場合は慎重に対応しなければならないので、信用調査も含め、業者の調査等をしたのか。
ニ 候補二業者について、災害、輸送(交通面)における安全性及び環境面に問題はないか。
ホ 長野県の佐久町内にも処分場があるような話も聞いたので、委託が可能かどうか調査すること。
(六) 被告から右の五項目の指示を受け、落合部長は、異動して間もないことであり、自らも本件起案文書の内容は全く見ていなかったので、いったん本件起案文書は撤回すると申し出て持ち帰り、委託先業者の選定について引続き検討することとした。
そして、落合部長は、本件起案文書を精査した上、これに添付されていた復命書に記載されていた産業廃棄物と一般廃棄物の混合処理の問題点を足立に、イバラキに対する意見は現場でも働いている市川係長にそれぞれ調査させ、またイバラキと契約するようになった経緯について職員に報告させるなどして検討を行った。さらに、落合部長は、平成七年七月一七日、イバラキの社長と話合いを行い、最終的に、単価三万二五〇〇円まで委託料を引き下げる旨の回答を得た。そして、同月二五日ころ、イバラキと候補二業者との比較検討の結果、環境部としては、同年一〇月以降もイバラキに委託することを決定し、その旨の被告の決裁を受けることとした。
(七) 落合部長及び足立課長は、平成七年七月二六日、被告と面談してそれまでの検討の経過を報告し、経済性及び安全性を重視するならばイバラキに委託するのがよい旨の環境部の意見を述べた。被告はこれを了承し、イバラキが委託料を引き下げたことで約三〇〇〇万円のリストラになったことにつき、環境部の労をねぎらった。
厚木市は、同年一〇月一日付けで、本件契約を締結した。
(八) その後も厚木市はイバラキに処理業務を委託しており、委託料は、平成八年四月一日からは、単価二万七〇〇〇円まで引き下げられている。また、厚木市は、同年一〇月以降は、リスクを分散するため、イバラキのほか、群馬県の草津町のウィズウェイストジャパンにも委託している。
以上のとおり認められる。
被告は、平成七年四月一七日の予算編成のためのヒアリングにおいて、本件業務の委託先業者選定のための調査中であることの報告はなく、同年七月一二日まで環境部が業者選定の作業を行っていたことは知らなかった旨を供述し、足立はこれに一部沿う証言をする。しかし、被告も、同年三月二四日に、業者選定の作業の話があったことは認めており、足立もこのときの被告の態度を受けて環境部で選定作業が行われたことは否定していないことからすると、環境部の選定作業が被告の意向とは無関係で進められたとは思われない。また、被告が、「君達はプロだからよろしく頼む。」との趣旨の発言をした時期について、川田及び足立は同日のことであった旨を明確に証言しているのに対し、被告のみがこれは同年七月一二日のことであって同年三月二四日のことではない旨を述べており、業者選定についての環境部からの報告がいつ被告にされたかという点についての被告の記憶は曖昧であり、その供述は採用できない。また、被告は同年七月一二日に落合らと面会した際、その場に決裁文書があるという認識が無かったというが、落合及び足立の具体的で明確な証言と対比して採用できない。
他方で、原告らは、被告には同年六月ころ書類に目を通す時間的余裕があったから、同年七月一二日以前に本件起案文書を見ていたはずであると主張するが、被告が本件起案文書を見ていたことを窺わせる的確な証拠はなく、この点、原告らの右主張を採用することは些かためらわれる。
3 被告の判断の合理性の有無
(一) まず、委託先業者を決定する上で考慮すべき要素を検討する。
前記認定事実によれば、委託料(単価)は、イバラキが三万二五〇〇円、ダイユウ技研が二万六五〇〇円、三石産業が二万七〇〇〇円であったから、厚木市がイバラキへの委託を止め、ダイユウ技研に委託していたとすれば、厚木市の一般廃棄物の排出量は平成七年度においては一万一六〇二・六一トンであったから(甲八)、委託料は、単価で六〇〇〇円、平成七年度一年間の総額で約七〇〇〇万円の減少となり、これに加えて、川田部長以下の調査の結果(丙三九)どおり、下蒲刈町が負担金の拠出を求めなかったとすれば、平成七年度において厚木市が千代川村に支払った約四〇〇万円の拠出金の負担も不要となったはずであるので、厚木市の財政負担はさらに軽くなったと見込まれる。また、イバラキが、平成三年度から平成六年度までは値上げを続けていたにもかかわらず、平成八年四月一日からは単価を二万七〇〇〇円までかなりの幅で値下げしていることからすれば、イバラキに対し、業務の質を落とさずに委託料を更に低額に下げさせる粘り強い交渉を行い係争の時期からこれを実現していれば、価格差は一層少なくなっていたものといえる(もっとも、右の平成八年四月一日からの値下げの事実からすれば右委託料(単価三万二五〇〇円)が適正な金額といえるのか否かについて疑念がないではないが、どの程度の委託料が適正といえるかを明らかにする的確な証拠はないといわざるを得ない。)。
以上のような委託料の高低の問題があるが、他方で、厚木市においては、県下の一九市中では唯一、一般廃棄物の最終処理場がなかったことは前示のとおりであり、一般廃棄物の安定確実な処理が一層要求され、委託先業者の選定においては委託料の安さだけではなく、その信頼性が重要であった。すなわち、当時から、業者の不手際等から廃棄物の受入れの停止などの事態が生じていたことは前示のとおりであり、このような事態を避けるためには、処理と管理が法令に沿って行われることはもちろん、十分な安全性が確保されるような形で業務が実施されることが必要であった。そのため、処理を委託する地方公共団体としても、業者任せにするのではなく、その処理と管理について最終処分場に足を運ぶなどして管理をする必要があった。また、廃棄物の運搬中の事故が契機となって、廃棄物の受入れの停止などの事態に至ることも予想されたため、その運搬上の安全性についても配慮する必要があり、加えて、最終処理場の所在する地域の地方公共団体との間で信頼関係を維持し、万一事故が起こった場合にも迅速に対応できる体勢を整える必要があった。このような観点から、廃棄物を処理する業者の選定においては、当該業者が廃棄物の処理と管理を十分な安全性を確保して行う信頼性を備えているか否か、最終処理場の所在する地域の地方公共団体との信頼関係を円滑に築くことが見込まれるか否か、最終処理場までの距離が余りに遠いといった事情がないかどうか、最終処理場までの廃棄物の運搬における安全性が確保できているか否か、といった点が重要な考慮要素であったといえる。
そして、このような点にかんがみるならば、イバラキによる廃棄物の処理業務の過程と結果において、厚木市がイバラキに委託を開始した平成三年四月一日から取り立てて大きな問題を引き起こしておらず、また、そのような問題の発生を予測させる事情もなかったという前示の事情は、厚木市において、処理業務の委託料の安さに優るとも劣らず重視すべき事情であったといえる。一方で、今日の交通事情、現実の事故の発生の可能性と現実に事故が発生した場合の対処の可能性を考慮するならば、従前と比べて相対的に重視すべき程度が低下した事情ではあるものの、候補二業者の最終処理場はイバラキの最終処理場より遠方に存在し、殊にダイユウ技研の最終処理場への廃棄物の運搬は船舶輸送によらなければならないのであるから、前記のとおり厚木市においては安定確実な処理が強く要請されていたという観点からは、候補二業者に委託することには、イバラキへ委託する場合に比べ、その安全性や爾後の監督等の面において、一定程度のマイナス要因があったことは否定できない。
(二) 次に前記のような委託先業者の変更に伴う経過に不透明なものがないかどうかを検討する。
前記認定事実によれば、被告は、いったんは川田部長以下の環境部による業者の選定作業に理解を示しておきながら、三か月間の調査の後に候補として挙げられた他の業者へ委託するという作業結果案(以下「川田案」という。)に難色を示し、その後、短期間でイバラキへの委託を決定しており、その経過は不自然に見えなくもない。さらに、証拠(甲三・一七)によれば、本件契約の締結の経緯についての真相を解明するため、厚木市議会は、各会派からの九名の委員によって構成される「ゴミ焼却灰最終処分に関わる調査委員会」を設置し調査を行ったが、その際、環境部は、本来は加算されるべきでないガラスの処理費用を加算する等してイバラキの処理単価が候補二業者と比較して高額ではないかのように装った資料(甲一四)を提出し、また、本件起案文書については当初は存在しないと述べていながら後にそのコピーが提出されるなど、不明朗な経緯をたどっている。加えて、落合部長以下の新たな環境部に対する被告の指示の仕方を見ると、自らは本件起案文書(川田案)に目を通していないにもかかわらず、落合部長以下の環境部にその検討を促しており、この点にも不自然さが感じられる。
しかし、前記認定事実及び証拠(丙二一・二二、証人落合次郎、被告兼参加人山口巖雄本人)によれば、被告が落合部長以下の環境部に対し再検討を促した際も、その態度が強行で環境部の意見を聞き入れようとしなかったといったものではなく、職員の報告に対し率直な感想を述べたところ、たまたまその報告をしたのが、部長に就任して間もない落合であり、落合自身本件起案文書に目を通していなかったため、簡単に本件起案文書を取り下げてしまったという経過をたどったと解するのが相当である。そして、川田案は、委託料が高い点以外には従前格別の問題がなかったイバラキを、委託料が安いことを主な理由として遠方の新規の候補二業者に変更するというものであり、被告に一定の決断を迫るものであるから、被告が慎重を期すということには、一般論としてそれなりの合理性があるというべきである。しかも、被告が落合部長らに再検討を促したことについて、何らかの不正な動機があったというような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(三) さらに、そもそも川田案自体に問題がないかを検討する。
川田は、多数存在する全国の業者の中からイバラキ以外の四社のみを当初から選定することから調査検討を開始し、証拠(証人川田利夫)によれば、右四社を選定したことに特段の理由はないと認められる。また、川田は、イバラキに対し見積りを求めてはいるものの、イバラキは当然に外す前提で調査検討に臨んでおり、イバラキの四年以上に及ぶ実績について不当に軽視していることは明らかである。
さらに、証拠(丙三八、丙四三の一ないし三、証人比留川栄)によれば、川田は厚木市役所を定年を一年残して退職した後、三石産業の厚木市内の代理店であった有限会社大成産業に就職し、かつての職場である厚木市役所を訪れ、同社の事業本部長の肩書きの名刺を配布して営業活動を行っていること、選定の過程において部下であった足立及び新たに部長に就任する落合から、業者の選定について政策会議に諮るべきではないかとの上申を受けた際にも一貫してその必要はない旨を述べていること(川田は、当法廷において、政策会議(同人は行政会議と述べる。)が機能していなかったと述べるが、合理的な理由とはいえないであろう。)、前記のとおり多数の業者の中から安易に候補二業者を含む四業者に候補を絞っていることが認められることからすると、現段階で振り返れば、川田の選定作業にも、いささか客観性・中立性について疑念がないわけではない。
これらの事実によれば、川田部長以下の環境部が行った調査検討は三か月間に及んだとはいうものの、その内容は十分といえるものではなく、落合部長以下の環境部がその結論を覆したとしてもあながち不自然とはいえない。
(四) さらに、その他の事情として、以下のような事実に留意する必要もある。
証人川田は、当裁判所において、イバラキについては、その最終処分場が平成三年の廃掃法の改正前に駆込みで申請されたもので平成七年当時の基準には合っていなかったこと、当時処分場を拡幅することが予定されていたこと、ガラスくずをそのまま埋めて処理されていたことの問題点を指摘する。しかし、前記認定事実によれば、その当時、イバラキについてはその処理単価の高さが主に問題とされていたことは前示のとおりであるから、この点がイバラキを選定から外す動機とされていたとの証人川田の証言は信用できない。
一方で被告及び参加人は、候補二業者においては、一般廃棄物と産業廃棄物を混合処理していたことに伴う危険性が懸念された旨を主張するが、落合部長以下の環境部が平成七年七月一二日から二五日ころまでの短期間の再検討で真にこの点を理由としてイバラキに委託を決定したとは認め難い。
(五) 以上によれば、委託先業者の変更案(川田案)不採用の経過には一見不自然な点があるものの、よくよく見れば、必ずしも不自然な点ばかりがあるとはいえないのであり、前記のような厚木市が置かれた状況の下においては、イバラキの四年以上にわたる実績と最終処理場までの距離及び搬送方法という点で、前記の価格差を上回る十分な理由があったから、結局、被告が、イバラキとの間で本件契約を締結したことには、一定の合理性を認めることができるというべきであり、候補二業者との間で契約を締結した場合に比較して、結果的に委託料が高くなったとしても、それをもって被告に市長としての善管注意義務違反があったとか、本件契約の締結に地方財政法四条一項に違反した違法があるということはできない。
三 結論
以上によれば、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 近藤壽邦 裁判官 弘中聡浩)